そらいろくらげが浮き輪で海に浮いているイラスト

吹奏楽定期演奏会で照明演出を成功させるために大切なこと

毎年、春と秋には全国各地のホール・劇場で中学校や高校吹奏楽部、アマチュア吹奏楽団などの吹奏楽団体による定期演奏会が開催されています。

この定期演奏会では第1部と2部がクラシックの演奏で第3部がポップスの演奏というようにお決まりのパターンがあります。
特に第3部では演奏での演出に限らず照明演出でも力を入れており、見どころ満載のステージとなっています。

ですが、「こうしたい「ああしたい」「あれもやりたい」「これもやりたい」という希望を叶えるためにどうすればいいのか、毎回ホール・劇場の照明担当者は頭を悩ませるところでもあります。

そこで、吹奏楽定期演奏会での照明演出を成功させるために大切なことを考えてみたいと思います。

どんな照明注文が多いのか

ホリゾントライトの色変化


一番多いのが、ホリゾントライトの色変化です。2部までは反響板を使用し、3部では休憩時の転換で一番後ろの正面反射板を上げ、ホリゾント幕とホリゾントライトを使用して色を変化させます。
このホリゾントライトの色変化は見た目で一番わかりやすい照明の変化ということもあって、曲中で「この小節では青」「この小節は赤」というように細かく決められており、1小節ごとの頻繁な色変化の注文もよく見られます。

ミラーボール


基本的に、反響板を使用しているときは舞台上を大きな蓋で塞いでいるのでサスペンションライトや美術バトンなどの吊り物装置は使用できません。
しかしホールの構造によっては一部の吊り物装置が使えるところや、吊れなくても置くタイプのミラーボールのあるホールや劇場もあります。

そういうところではミラーボールの使用を希望される吹奏楽団体がいらっしゃいます。
このミラーボールもまた、非常に目立つ存在なので曲中に多用されます。

サーチ


ホリゾント幕や反響板の前にスポットライトを設置し、幕や板に対して縦や斜めに当てて光の筋を見せる演出方法です。こちらもまた目立つので多用されています。

反響板やホリゾント幕にパターンなどを投影


特殊効果の出せる照明機材では、ガラスやステンレス製の種板を装着してホリゾントライトや反響板にパターンなどを投影することができます。数多くのパターンがあり、いろんな曲に応用が効くためこちらもよく好まれて曲中に何度も登場します。

照明の注文はどうやってホールや劇場担当者に伝える?

事前打ち合わせ

ホール利用日の約1ヶ月〜2週間前に、ホール利用打ち合わせが行われます。その時点で、進行表や曲目リストなどの資料とともに何をどうやりたいのかということをホール・劇場担当者に伝えます。

この打ち合わせで必要な内容は、どういった照明演出を行うかということです。例えば、先の項目で挙げたようなホリゾントライトの色変化、ミラーボールの使用などは事前の準備が必要になりますので、この時点で伝えてもらえるとホール担当者は余裕を持って事前の準備を行うことができますし、付帯設備料の概算見積りを作成することも可能です。
なお、具体的な機材や舞台設備の名前がわからなくても、「後ろの色を変えてほしい」とか「反響板に模様を出してほしい」といった伝え方で問題ありません。

また、客席後方から人物を追いかけるピンスポットライトは、操作する人件と人件費が別途発生しますので、必ず打ち合わせで伝えるようにしてください。当日になって「ピンスポットライトで追ってほしい」と申されても多くのホールでは急な人件の手配ができないため、使用することは難しいです。

ピンスポットライトの操作は1台につき1名です。上手と下手で同時にピンフォローしてほしいといった場合には2名必要です。

用意しておく資料

  • 全体的な進行表
  • 本番中の進行だけでなく、入館してから退館までの全体的なタイムテーブルがあると望ましいです。

  • 舞台配置図
  • 使用する平台の大きさ、位置、使用枚数、高さ、演奏者椅子、バス椅子、譜面台、指揮者譜面台、指揮台など使用するホール・劇場備品の数、ビブラフォンやアンプなどの電源を使用する位置とコンセントの数などを記載しておきます。
    各部で編成や配置が変わる場合は、各部ごとの配置図を作成しておきます。

  • 照明演出の注文を記載した曲目リスト
  • 演奏曲はこっちの資料、曲間の演出はこっちの資料と分けずに、なるべく見やすいように一つにまとめてください。
    また、小さい文字だと40代以上の老眼を患ったオペレーターが嘆き悲しみます。できれば、10pt以上の文字の大きさにしてもらえると非常に助かります。

    なお、照明変化を記入した楽譜のみの資料はご遠慮願います。楽譜を追いながら操作するというのは、例えて言うなら「本の地図を見ながら目的地まで運転してください」と、タクシー運転手に伝えているようなものです。
    これは調光操作卓オペレーターだけでなく、ピンスポットオペレーターでも同様です。ピンスポットオペレーターは、照射する対象物を銃を構えて狙っているようなものです。構えている状態で、楽譜を追っていくというのはとても至難の業です。

  • ソロ演奏者の位置
  • ソロ演奏者をスポットライトで狙う場合は、演奏者の位置を記入したものが必要です。「ピッコロのソロです」と言われても、広いホールや劇場の客席後方から大勢いる中でソロ演奏者を探してフォローするのは難しいです。
    舞台前方に出てきてソロ演奏する場合は、ソロ演奏者のパートと順番もわかると非常に助かります。
    マイクの有り無しも、音響にとって必要な状況なので記載しておきます。

利用日当日

当日は、ステージマネージャーだけでなく照明のキッカケ(照明変化を開始する合図)を照明オペレーターに伝える要員を必ず配置してください。進行表や照明用の資料はあくまでも確認するためのものです。
オペレーターが操作しながら一回のリハーサルだけで細かいきっかけを追っていくのは、プロでも至難の業です。
やはり、演奏曲を何度も練習して聞き慣れている吹奏楽団員の方に照明変化のキッカケを出してもらったほうが、こちらとしても安心してオペレートすることができます。

演奏会の照明演出で注意すること

その照明演出、ライティングショーになってない?


ロックコンサートみたいに、1曲の中でパカパカと照明を変えたくなる気持ちはわかります。でもそれは、演奏会ではなくライティングショーです。
お客さんはライティングショーを見に来ているのではなく、演奏を聞きに来ています。過度な照明変化をしていると、残念ながらお客さんの気は照明に取られて肝心の演奏が耳に入らないだけでなく、ただの目障りでしかなくなります。

照明演出も演奏と同じです。演奏も照明もメリハリが大切です。楽譜を見ても、ずっとフォルテやピアノ表記がされているということはありませんよね。何もずっと変化させている必要はないのです。
例えば、楽譜の曲想や奏法の表記のある部分だけを照明で変化を出したり、クレッシェンドに合わせて徐々に変化を付けていき、曲が全体的に盛り上がったりフォルテッシモの部分だけ曲に合わせて思い切り照明を変化させても充分だと思います。
「ここ」というところで変化を付けることで、演奏者と演奏曲を引き立てる最高の演出になります。

オペレーターへのキッカケ出しはわかりやすく

一番多いのが、「ここで青をお願いします」や「ここでドラムソロです」という急に来るパターンです。それは、タクシー運転手に交差点に差し掛かってから「ここ左折です」と伝えるようなものです。いきなり交差点で言われても、急に左折はできません。
でも、タクシーの運転手に事前に「あの信号を左折です」と事前に伝えておけば、運転手はサイドミラーとバックミラーで後方を確認し、ウィンカーを出して安全に左折することができます。

操作卓とピンスポットのオペレートも同様です。そろそろ照明変化のキッカケが来るというところで、「間もなく、ホリの色を青です」「間もなく、ドラムソロです」とオペレーターに伝えておくことで、オペレーターも心と体の準備ができます。

それと、ありがちなのがピンスポットのキッカケと照明変化のキッカケが被ってしまい、どちらか一方しか出せなかったという場面。そういうときは、ピンスポットのキッカケはステージマネージャーに出してもらうなどして、分担してください。
また、ピンスポットを使用する場面では、「当てる」というキッカケのあとには「消す」というキッカケもありますので、お忘れなく。
「間もなく演奏終わります」「終わりです」とキッカケを伝えてもらえるとわかりやすいです。

「間もなく」ってどこから?

「間もなく」と言ってもどこで言えばいいのか、悩みどころでもあると思います。曲の速さにもよりますが、ちょうどいいのは3小節目のちょっと前くらいだと思います。
ですので、事前にオペレーターと打ち合わせして3小節前くらいから出しますと伝えておき、「間もなくホリの青です、3、2、1、どうぞ」と小節に合わせてカウントしながら伝えてもらえるとわかりやすいです。
「お願いします」は言いがちですが、長い言葉は却ってキッカケを逃します。プロも「どうぞ」を使っていますので、簡潔で伝わりやすい「どうぞ」をお使いください。

ホリゾントライトを使うときは基本明かりも考える

例えば、最初の数小節はホリゾントの色が赤、3小節後に赤をアウト、その5小節後に青という指定だった場合。3小節後の赤をアウトした時のホリゾントの色を考えていないということがよくあります。

ホリゾント幕は、ホリゾントライトで照らさないとただの布地です。ホリゾントライトを点けない状態でも問題ありませんが、ちょっと格好悪いです。ですので、色の指定がない演奏時のホリゾントライトの基本明かりというのを決めておくことをオススメします。

お客さんの目線を大切に


舞台や舞台袖にいると、お客さんにとって舞台がどう見えているのか、照明変化が目障りではないかなどまったくわかりません。演劇でもオペラでもロックコンサートでも、照明プランナーは客席で明かりを見て作っています。
リハーサル中に、客席のいろんな位置に座ってお客さんの目線で見てみることをオススメします。

締めくくり

ごく当たり前のように定期演奏会での照明演出が求められますが、ちょっとやりすぎなのではと思っても公共ホール担当者という立場からは直接伝えるのは難しいところがあります。
かといってこのままでいいのかなと感じたので、このブログで取り上げてみることにしました。

たとえ、「これはこうした方がいいですよ」などとホールや劇場担当者がアドバイスしても、「先輩がこうしていたから」「ずっとこうしてきたから」という理由で続けられていくことは、部活動に限らず吹奏楽団体でも一緒だと思います。また、その年の担当になった団員や生徒に伝えても、次の年の定期演奏会になったら誰にも伝わっていなかったということもよくあることだと思います。

かといってそれ以上はホール・劇場担当者も口を挟めません。だからせめて、その年の担当者になった方が来年度以降に向けてやりやすい方向に変えていく勇気を持つことが大切だと思います。

おまけ

定期演奏会用の照明進行表をExcelで作成してみました。
こんな感じで記載してもらえると、ホール・劇場担当者は喜ぶと思われます。改変、再配布はご自由にどうぞ。

下記のボタンよりダウンロードできます。

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  1. 電気マグロ(照明機材の盛り合わせ) より:

    お疲れ様です。
    こういう舞台照明を身近にする記事がもっと書かれる世の中であって欲しいと思います。

    タクシー運転手のくだりは大変的を得た説明だと思います。飛行機の操縦だと言う知り合いもいます。

    本番中のオペレーターの様子を馴染みのない人に見ていただく機会があると、「操縦」性が理解されやすいのではないかと常々思っています。

    1. そらいろくらげ より:

      いらっしゃいませー。

      こういった状況が世に出ることが稀であることを憂いたのもあって、記事にしてみました。
      どのホールや劇場もこういう状況を当たり前なことだと受け入れてしまっているんですよね。

      照明オペレーターが置かれる状況はなかなか一般的に理解し難いので、いろいろ考えてタクシー運転手に置き換えてみました。
      舞台業界というのは大変保守的で世間一般には理解されにくい場面が多々あるので、なんとか現状を打破すべく、自分が経験して感じたことをこのブログで取り上げています。

      ところで、「電気マグロ」って素敵なハンドルネームですね。

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