19日から22日までの3日間、横手市内とその周辺を巡る旅に出ます。
いつもは一人旅の多いくらげですが、今回は秋田県横手市出身の友人と一緒です。
今日は横手市内にある増田町に向かいます。
日本では蔵の残る街並みは多くありますが、この増田では母屋の中に蔵を建てるという珍しい蔵が40以上も現存しています。この内蔵(うちぐら)は一般開放しているため見学することができるのです。
増田までは公共交通機関だと北上線十文字駅からバスか、横手駅東口からバス利用になります。
くらげたちは横手駅から羽後交通の稲庭行に乗りました。所要時間は30分ちょっとです。Suica・PASMOは使えません。
内蔵とは
内蔵は、内部に床の間を配した座敷間を有する「座敷蔵」が最も多く、内蔵全体のおよそ65%を占めています。この内蔵が建てられた始まりは、物品を収納するための「文庫蔵」がほとんどだったと推定されますが、増田地区では明治に入ってから、座敷蔵の数が格段に増加し、文庫蔵を座敷蔵に改装した例も多くあります。
こうした座敷蔵は、1階の入口を入ると手前に板の間、奥に座敷間を配する2室構成となり、2階は板の間の1部屋構成で、什器類を収納する文庫蔵としての機能を持っています。なお、呼称については居住している方々は、単に「クラ」或いは「ウチグラ」と呼んでおり、確定した名称はありません。ただし、寺社や醸造所等については、代々座敷蔵であっても「文庫蔵」として呼び伝えている例が見られます。
他の土蔵との違いは、そこに生活空間を持つという点であり、用途は多様ですが、多くはその家の当主或いは特定の家族の居室として利用され、冠婚葬祭に利用された例も見られます。こうしたこともあり、内蔵は日常的に不特定多数の人間が立ち入る空間ではなく、家族以外の立ち入りは制限されていました。このため、外から見えない内蔵は、長い間、家長及びその子弟限定の施設として、所在について隣家に知られない場合もあったという、極めて特殊な施設として現在に伝えられてきたのです。
増田町観光協会|まちなみと内蔵より抜粋
内藏を巡る
見学することのできる内蔵は増田の中心部にある増田蔵町通りの両側に集約されています。見学できる内蔵は19軒。うち12軒は有料公開です。
全部回るのは大変なので、有料の気になった蔵を選んで巡ることにしました。
まちの駅福蔵(旧佐藤興五兵衛家)
こちらの建物は主屋と内蔵ともに明治中期に建てられていて、現在はまちの駅福蔵として物産センターとして増田の名産品を売っているお店です。
店舗の奥に次屋があり、ここには2つの神棚が祀られています。神棚が2つあるというのは非常に珍しいのだそうです。
こちらが水屋。土間になっており、台所があった場所です。蔵の手前には井戸の跡も残っています。
ナショナル製のランプがかわいいです。
こちらが内蔵です。
手前の板の間は非常に広くて奥行き10間、間口がうろ覚えですが7間ほどだったと思います。当時はこちらの内蔵で結婚式が催されていたそうです。当時の写真も残っていました。
近ごろでは落語などが開催されたこともあるそうです。
板の間までは立ち入ることができますが、奥の畳の間は入ることができません。
旧石田理吉家
こちらは有料の建物です。横手市に寄贈され、横手市の指定文化財に指定されています。この地域では珍しい木造3階建ての主屋となっています。
見学は管理している横手市職員の方が案内してくれます。
家紋は柊の葉が2枚重ねられていますが、右が上になっている場合は分家を表しているそうです。
蔵の扉は黒漆喰が塗られており、開閉部には左扉が外側、右扉が内側に段が付けられています。これを閉めればしっかりと合わさって密閉されるため防火効果があります。また、一枚の扉で数百キロにもなる重さのため防犯対策にもなっています。
蔵の中の壁には欅で作られた柱がありますが、柱の役目をしているのは天井の梁とつながっている部分のみ。あとは壁板として張られているだけなのですが、この板は泥棒が漆喰を崩して侵入するのを防ぐためのものです。内側の漆喰は触ってみると陶器のようにしっとりとなめらかな手触りをしていますが、これはすべて左官職人が手で磨き上げています。
欄間には松竹梅や縁起の良いタケノコ、くわいなどが描かれています。
蔵の収蔵物も展示されていて、和箪笥や長持だけでなく、熊やカモシカの毛皮もありました。下がカモシカでその上が羊で一番上の赤いのがクマ。
こちらは蔵が完成したときに棟梁が施すおまじないのようなもの。破魔矢と鼻緒が切られた草鞋が貼り付けられていて、この草鞋は「棟梁がもうここに通わなくてもいい」ということを表しています。つまり、いつまでも壊れることなくいい状態が続きますようにという意味です。
続いて主屋に向かいます。こちらの主屋は1階から3階まですべて客室です。家主は隣に住んでいました。
こちらは1階の客室。この床の間に使われている木は東南アジア原産のものだそうです。
この欄間に使われているなんとも不思議な模様は渋柿です。実は渋柿は木の中にも渋が回っていてこの様な模様が出るのです。
続いて2階に登ります。階段のつやが美しい。
途中の電気のスイッチがまたいい味を出しています。もちろん現役です。
廊下にある洗面所の蛇口がまたレトロでステキ。
2階は和室と洋室です。それぞれ隣り合っていて、見事に和と洋のあしらいを変化させています。
続いて3階。こちらは夏に打ち上げられる花火を鑑賞するために作られました。今でも近くに高い建物がないため日当たりもよく遠くを眺めることができます。
ただ、3階は雨漏りに寄る損傷が激しく、至るとこに雨漏りの跡が残っています。また損傷の多い部分は修復されていますが、当時の建材が手に入りにくいためできる限り再現するに留められています。
続いて、1階の水回りです。名称プレートが陶器製でかわいいです。
便所はなんと便器が伊万里焼。豪勢に見えますが、焼き物は汚れが落としやすいので合理的ではあるのです。
つばくら食堂でお昼ご飯
この2軒を回るだけで2時間かかり、時間はお昼となりました。お昼を食べることができる飲食店はあまり多くはありません。そのうちのつばくら食堂というところに向かうことにしました。
店舗は昔ながらの食堂といった趣です。メニューは焼きそばとラーメン。くらげはマーボーラーメン、友人は味噌ラーメンを注文。
ふたりとも一口すすってびっくり。思っていたよりもおいしいではありませんか。田舎の食堂ということで失礼ながら期待はしていませんでしたが、いい感じで予想を裏切られました。
街並み散策
お腹いっぱいになったのでしばらく街並みを散策します。
こちらは月山神社の狛犬。吽形は歯を出してにっこりしているように見えます。
阿形はしっぽを振っているのが目に見えます。思わず頭をなでてしまいました。
ここは北都銀行発祥の地です。
日本家屋には椿がよく似合う。
今日はそこそこ気温が上がっているんですけど、まだ雪が残っています。
旧村田薬局
続いて、旧薬局を見学します。こちらは指定文化財で有料公開です。
こちらの村田薬局は江戸時代中頃から平成15年まで続いた老舗の薬局です。蔵の店自体は明治30年頃に建てられました。薬の外販や卸売を手がけ一時は県南一の売上げを記録しましたが、平成10年代に入って販売不振が続いたため平成15年に廃業となりました。
店舗には昔ながらの陶枕や薬瓶、目薬の瓶、哺乳瓶、今はもうない薬が展示されています。
こちらは調合室。理科の実験室みたいです。
続いて狭くて暗い地下室へと降ります。ひんやりとしていて寒いくらいの気温です。
ここには、今では劇薬指定されている塩酸などの薬が保管されています。廃棄するにも1本7,000円掛かるのだそうです。
内蔵は生活スペースとなっています。蔵の中での生活は冬は暖房が効かず非常に寒いのだそうです。
続いて主屋の2階に登ります。狭くて急な階段をのぼるとそこは展示スペースとなっていました。こちらは百味箪笥です。いろんな薬の材料を保管していました。
医療器具なんかも置いてあります。注射器が太すぎて怖い。
こちらは戦後にGHQから支給された包帯や薬。包帯はあまり質が良くなかったそうです。
くらげが一番惹かれたのはこの碍子引き。昔の電気配線です。電気工事士の勉強で習ったのですが実物は初めて見ました。
そしてナイフスイッチ。今で言うブレーカーの役割をしているものです。
薬局と言えばこの二匹。さとちゃんとケロちゃん。
佐藤又六家
こちらは国の重要文化財に指定されている建物で有料公開です。
この佐藤又六家は江戸時代から続く旧家で、現在の12代目又六氏に至るまで代々の当主が又六の名を襲名しています。数年前にはこの佐藤又六家に皇太子一家がご訪問されたそうです。
通りから店に入るとすぐに内蔵部分になっています。
主屋の1階仏間には蔵の完成した明治6年に購入した掛け時計が現役で時を刻んでいます。
天井の梁は囲炉裏の煙に燻されていい感じに黒くなっています。
一番突き当りにある納屋は書庫及び子供の遊び場となっていて、すべり台やおそらく代々受け継がれている木馬が置いてありました。この木馬には皇太子さまも跨がれたそうです。
続いて、内蔵の二階へと上がります。こちらも電気配線が気になります。
こちらが蔵の二階部分。なんとも不思議な感じです。
施されている模様は左官職人による手描きです。
通りに面した外側には3本の梁が出ています。その先にある緑色は銅板で作られているのですが、こうやって現存しているのはこの家の銅板は厚く作られているからだそうです。たしかにほかの家を見てみると腐食してなくなりかけているところがほとんどでした。
日の丸醸造
続いて酒飲みには欠かせない酒蔵見学です。この日の丸醸造は増田唯一の醸造元です。こちらは有料で予約が必要ですが、案内はありません。最後にお酒の試飲ができます。
日の丸醸造は元禄二年に創業した歴史のある醸造所です。昭和56年に横手市を舞台にしたNHK朝の連続テレビ小説「まんさくの花」が放映されたのを機に「まんさくの花」という銘柄が誕生しました。それまでの主力製品だった「日の丸」と比べてきれいで優しい酒質となっていて、今では日の丸醸造の代表銘柄となっています。
こちらは向かいにある倉庫。新酒を知らせる立派な杉玉が吊られています。こちらは見学できません。
醸造所の入り口を入ると、でっかい1斗瓶が置いてありました。さすがにこの大きさでは膝に抱えて飲むことはできそうにありません。どうやって飲めばいいのだ。
こちらは醸造場。立ち入りはできませんが外から覗くことは可能です。
こちらは大きな木樽。桶職人だったくらげ父もこういうの作っていました。
形がかわいいしずく瓶。もっと小さいのほしい。
こちらが内蔵。非常に中はきれいに保たれています。
見学が終わったところで、お待ちかねの試飲タイムです。試飲スペースは店舗入口にあり、セルフで置かれている日本酒を小さなプラカップで試飲します。友人と楽しく試飲していたら、冷蔵庫に入れてあった残り少ないヨーグルトリキュールを出してくれました。
リキュールにはあまり興味が無いのですが、せっかく出してくれたんだしと一口飲んでみたらその美味しさに撃沈。このヨーグルトリキュールの「よーぐるしゅ」は栗駒ヨーグルトに醸造アルコールと甘酒を加えてあるのですが、チーズみたいな濃厚感とほどよいアルコール感、甘すぎずすっぱすぎない飲み口で、お酒を飲んでいることを忘れてしまいそうな爽やかなおいしさでついつい何度も飲んでしまいました。もちろん、迷わず2本お買い上げ。あと、イチオシの銘柄であるまんさくの花も買いました。醸造所では送料1,000円で配送もしてくれるので重たい瓶を買っても問題ありません。
横手の居酒屋でお酒を堪能
帰りもバスに揺られて横手駅へと戻ります。夕飯は友人の同級生が開いている横手駅近くにある「ほていや」という居酒屋へ繰り出したのですが、ここが実においしいお店でした。友人によると横手の住民は舌が肥えていて下手な店はすぐに撤退するそうなのですが、この店は地元の食材や味を大切にしているとお通しからも感じられます。
ということで明日もまたこの店に繰り出すことが決定しました。
明日はちょっと遠出をするので早い時間に解散です。
次のお話:明治に建てられた劇場、康楽館で大衆演劇を鑑賞【横手滞在記】
おさらい
増田町の位置。
他にも蔵を見たかったのですが、じっくり見ていくと1日では物足りません。全部見学したければ横手か湯沢に宿を取って二日間掛けて回ることをオススメします。
有料の蔵だと住人が説明をしてくれるのでよりじっくり詳しく見学することができます。
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