フルハーネス型墜落抑止用器具の着用義務と特別教育について

建設業などにおいて高所作業で使用される胴ベルト型安全帯は、墜落時に内臓の損傷や胸部等の圧迫による危険性が指摘されており、胴ベルト型の使用による災害が発生しています。また、国際規格等では身体を複数箇所で固定するフルハーネス型安全帯が採用されています。
そのため、厚生労働省では専門家委員会での結果を踏まえ、2018年6月に労働安全衛生法施行令や労働安全衛生規則などの法令を一部改正し安全な使用のためのガイドラインが策定されました。

この記事では、改正された内容と全国舞台テレビ事業協同組合(全照協)としての指針をご紹介します。

法令とはなにか


安全帯に関わる法令について触れる前に、まず「法令とはなにか」について触れていきます。
労働安全衛生環境を取り巻く「労働安全衛生法」「労働安全衛生法施行令」「労働安全衛生規則」などの法令は、過去に発生した多くの労働災害の教訓の上に成り立っているもので、今後どのようにすれば労働災害が防げるかを具体的に示しています。
法令を理解し、守るということは単に法律を遵守するだけでなく、今後の労働災害の防止について、具体的にどのようにしたらよいかを知るために必要なことなのです。

法令の内容

「法令」とは、法律とそれに関係する命令(政令・省令・府令・規則)の総称です。

法律国民の代表である国会議員が国会で議決して成立した法で、憲法の次に強い効力を持っています。政令内閣が出す命令で施行令と呼びます。この内閣は行政の中心であるので、先ほどあげた法律の次に強い力を持っています。省令各省の大臣が出す命令で施行規則と呼び、先にあげた政令の次に力を持っています。

法令ではないもの

行政組織の内部のルールや、行政組織内部での事務処理の手続きに関するルールを定めた命令で、法令のようにみえても、一般的に法令とは扱われないものです。

通達行政機関が部下である行政機関に出す命令や指示です。法令を運用するうえでの注意点などが述べられています。告示告示は「国民へのお知らせ」です。特に重要なお知らせを「○○省告示第○○号」などとして国民に示します。ガイドライン

指針とか基準とかを意味する言葉で、それ以上の意味もなければそれ以下の意味もありません。「こういう基準で具体的な法律の運用をしなさい」という通達として出されることもあれば、民間事業者に向けて要望として出されることもあります。

要綱事務をするうえで必要となるマニュアルです。

引用先:独立行政法人 国民生活センター|やさしく解説 法律基礎知識 法令の種類を知ろう②

今回の政令改正のポイント

安全帯を「墜落制止用器具」に変更

労働安全衛生法施行令第13条第3項第28号を改正し、「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る。)」を「墜落制止用器具」に改めます。また、本改正後「墜落制止用器具」として認められるのは、「胴ベルト型(一本つり)」と「ハーネス型(一本つり)」のみとなり「胴ベルト型(U字つり)」の使用は認められません。(注:U字つりは安全帯に体を預け、両手で自由な作業を行えるようにつくられた安全帯で、主に林業や電柱作業などに使われています)

墜落による危険の防止

労働安全衛生規則(第130条の5等)、ボイラー則、クレーン則、ゴンドラ則及び酸欠則を改正し、次の規定について「安全帯」を「墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)」に改めます。

要求性能墜落制止用器具の選定

「要求性能墜落制止用器具」の選定要件は以下の通り。

  1. 6.75mを超える箇所では、フルハーネス型を選定
  2. 2m以上の作業床がない箇所または作業床の端、開口部等で囲い・手すり等の設置が困難な箇所の作業での墜落制止用器具は、原則としてフルハーネス型を使用します。
    ただし、フルハーネス型の着用者が地面に到達するおそれのある高さが6.75m以下での作業は胴ベルト型(一本つり)を使用することができます。

  3. 使用可能な最大重量に耐える器具を選定
  4. 墜落制止用器具は、着用者の体重及び装備品の重量の合計の質量が使用可能な最大重量(85kgまたは100kg。特注品を除く。)を超えないように器具を選定しないといけません。

  5. ショックアブソーバはフック位置によって適切な種別を選定
  6. ① 腰の高さ以上にフックを掛けて作業を行うことができる場合は、第一種ショックアブソーバ(1.25m折り込まれている)を選定する。
    ② 足元にフックを掛けて作業を行う必要がある場合には、第二種ショックアブソーバ(1.75m折り込まれている)を選定する。
    ③ 混在する場合は、第二種ショックアブソーバを選定する。

安全帯の点検及び整備

墜落制止用器具の点検及び保管は、管理責任者を定めるなどをして確実に行い、管理台帳に点検結果や管理上で必要な事項を記録します。
点検は、日常点検の他に一定期間ごと(半年以内)に定期点検を行います。ランヤードは摩耗の進行が早いため、少なくとも1年以上使用しているものについては、短い間隔で定期的にランヤードの目視チェックを行う必要があります。

フルハーネス及びランヤードの交換時期の目安は、使い方によって異なりますが、フルハーネスは使用開始から3年、ランヤードは使用開始から2年を目安に交換します。屋外で使用する場合は、損傷がなくても紫外線で強度が低下していますので、交換時期は守りましょう。

各部品の点検項目は以下のとおりです。

  1. ベルトの摩耗、傷、ねじれ、薬品類による変色・硬化・溶解
  2. 縫い糸を摩耗、切断、ほつれ
  3. 金具類の摩耗、亀裂、変形、サビ、腐食、樹脂コーティングの劣化、電気ショートによる融解、回転部や摺動部の状態、リベットやネジの変形
  4. ランヤードの摩耗、素線切れ、傷、焼け焦げ、キンクや撚り戻り等による変形、薬品類による変色・硬化・溶解・アイ加工部、ショックアブソーバの状態
  5. 巻取り器のストラップの巻き込み、引き出しの状態、ロック機能付き巻取り器については、ストラップを速く引き出したときにロックするかの確認

特別教育の受講が義務化

安衛法第59条第3項の特別教育の対象となる業務に、「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務(ロープ高所作業に係る業務を除く。)」が追加されます。
特別教育の対象となる業務を行う者は、下表Ⅰ~Ⅴの科目(学科4.5時間、実技1.5時間)を受講する必要があります。

学科科目 範囲 時間
Ⅰ 作業に関する知識 ①作業に用いる設備の種類、構造及び取扱い方法
②作業に用いる設備の点検及び整備の方法
③作業の方法
1時間
Ⅱ 墜落制止用器具に関する知識 ①墜落制止用器具のフルハーネス及びランヤードの
種類及び構造
②墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法
③墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への
取付け方法及び選定方法
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法
⑤墜落制止用器具の関連器具の使用方法
2時間
Ⅲ 労働災害の防止に関する知識 ①墜落による労働災害の防止のための措置
②落下物による危険防止のための措置
③感電防止のための措置
④保護帽の使用方法及び保守点検の方法
⑤事故発生時の措置
⑥その他作業に伴う災害及びその防止方法
1時間
Ⅳ 関係法令 安衛法、安衛令及び安衛則中の関係条項 0.5時間
実技科目 範囲 時間
Ⅴ 墜落制止用器具の使用方法等 ①墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法
②墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への
取付け方法
③墜落による労働災害防止のための措置
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法
1.5時間

受講を省略できる条件

フルハーネス型墜落制止用器具の使用等に関して十分な知識及び経験を有すると認められる者については、学科・実技の一部の科目を省略することが可能です。

  1. フルハーネス型を用いて行う作業に6月以上従事した経験を有する者は、Ⅰ、Ⅱ、Ⅴを省略できます。
  2. で胴ベルト型を用いて行う作業に6月以上従事した経験を有する者は、Ⅰを省略できます。
  3. ロープ高所作業特別教育受講者又は足場の組立て等特別教育受講者は、Ⅲを省略できます。

なお、2019年2月1日より前に、改正省令による特別教育の科目の全部又は一部について受講した者については、当該受講した科目を適用日以降に再度受講する必要はありません。

全国舞台テレビ事業協同組合(全照協)としての指針


以上が今回改正された内容と、厚生労働省が策定した今回の一連の安全帯に関する規制の見直し等を一体的に示した「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドラインです。
続いて、全国舞台テレビ照明事業組合における指針を紹介します。

全国舞台テレビ照明事業組合は、舞台、テレビの照明事業を行う事業者の全国組織として、 昭和51年に創立され、昭和42年に舞台やテレビの照明事業を行う企業が中心となって集まり任意団体として「舞台テレビ 照明事業者連盟」を設立された業界団体です。

この度、厚生労働省が2018年6月に関係する政令・省令等を一部改正したことにより、解釈が難しい箇所について、一定の基準を全照協加盟会社に示すべく、業界団体(全照協)としての指針を作成しています。

フルハーネス型墜落制止用器具の着用義務についての指針

  1. フルハーネス型墜落制止用器具の着用すべき条件について
  2. 2M以上の箇所で作業を行う場合は、原則としてフルハーネス型墜落制止用器具を着用してください。新規格の胴ベルトについては労働者の身体保護の観点から、全照協では推奨致しません。
    ランヤードは原則として二丁掛けとし、2M~5Mまでの比較的低い箇所で作業を行う場合は、転落の際に床面に身体が激突しないように、ランヤード二丁のうち一丁は「緊急ロック付きのランヤード」を着用してください。

    補足:法律上は、「高さ2m 以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」とあるが、
    「作業床を設けることが困難」の状況解釈が、我々演出空間においては一律の判断が難しく、労働局の見解では、「当該の事案があった場合には、担当の労働基準監督官が個別に
    判断する」との事から上記のように規定しました。

  3. フルハーネス型墜落制止用器具の着用義務開始日について
  4. 政令どおり、2019年2月1日からとなります。旧規格のフルハーネス型墜落制止用器具については、経過措置期間の2022年1月1日まで使用できます。旧規格の胴ベルトについても、法令上は2022年1月1日まで使用可能ですが、今回の法令改正の趣旨からできるだけ早期に移行して頂く方が労働安全衛生法第三条労働者の責務を遵守する意味でも有益です。

  5. フルハーネス型墜落制止用器具の着用方法・点検・管理の義務について
  6. メーカーの取扱説明書をよく読み、指定の方法で緩みの無いよう装着してください。また、作業責任者による作業前点検と点検表の記録・保管と、管理責任者による倉庫等での
    管理表を作成してください。
    作業前点検時に不具合があれば使用禁止となりますので、現場ごとの予備の準備が必要です。耐用年数はメーカーにより違いがありますが、フルハーネス型墜落制止用器具ボディは3年、ランヤードは2年がほとんどです。

フルハーネス型墜落制止用器具特別教育についての指針

  1. フルハーネス型墜落制止用器具特別教育を受講すべき方について
  2. 2M以上の箇所で作業を行う場合は、原則としてフルハーネス型墜落制止用器具を着用し、フルハーネス型墜落制止用器具特別教育を受講してください。

    解釈:着用義務と同じく、「作業床を設けることが困難」の状況解釈が、われわれ演出空間においては一律の判断が難しく、安全配慮義務の観点から、上記のように規定しました。

  3. フルハーネス型墜落制止用器具特別教育、一部省略の条件について
  4. 今回の特別教育は、受講者の経験や足場の組立て等特別教育の受講の有無によって、一部講義内容を省略することが可能です。
    しかし以下の大阪労働局の見解を元に検討を致しますと、我々「演出空間等での高所作業」のフルハーネス使用経験について、ライトブリッジ、キャットウォーク、フロント、
    シーリング、ギャラリーなどの作業は、構造物の形状により労働基準監督官の判断が分かれる為、トラス上での作業経験の有無でご判断頂く方が安心です。
    尚、6か月以上従事して経験の定義に関しましては、法令的に日数の定義はありませんが、継続的な作用経験が必要であると考えられます。判断が難しい場合は4時間以上の特別
    教育の受講を推奨させて頂きます。

「高さが2メートル以上の箇所で作業床を設けることが困難なところにおけるフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」について、特別教育が必要な業務であるかの判断については以下の表を参考としてください。

業務内容 該当の有無
鉄骨建て方作業で、鉄骨上での作業を行う者 該当有り
足場の手すりを一時的に取り外して行う作業 該当無し
パラペット端部、開口部での作業 該当無し
高所作業車で作業を行う者 該当無し
天井クレーンのホイスト点検業務(ガーター歩道上で行うもの) 該当無し
天井クレーンのホイスト点検業務(ホイストに乗って行うもの) 該当有り
デッキ型ゴンドラで行う作業 該当無し
チェア型ゴンドラで行う作業 該当有り

特別教育の科目が省略される6月以上の経験には、上記の「該当無し」の作業は含まれない。ただ単にフルハーネスを使っていたと言うだけでは、省略できない。
引用:全国舞台テレビ照明事業協同組合協同組合(全照協)としての、フルハーネス型墜落制止用器具の着用義務と、特別教育に関する指針
建設業労働災害防止協会 大阪府支部|「安全帯にかかる政省令等の一部改正」説明会の資料及びQ&A

締めくくり

12月19日に全照協主催の特別教育を受講したのですが、定員が80名に対して、実際は2倍以上の200名の受講者が押しかけました。ただ、首都圏だけ見たとしても、該当者が200名ということはまずありえないため、今回の受講を逃してしまった該当者は相当な数に登るのではないかと予想されます。

次回の開催については、全照協のサイトでご確認ください。
全国舞台テレビ照明事業協同組合

今回の法改正に関しては、くらげ自身としては「舞台で使用する高所作業用安全帯に関する問題と提言」という記事で述べたとおり、胴ベルト型安全帯の危険性をひしひしと感じていたので、フルハーネス型が義務化されるのはありがたいと感じています。
ただ、法改正というのは裏の方では利権が絡んでいることもあって正直に喜べないというのも事実です。

今回、Twitterではこういった意見も見られました。

東京五輪の開催もあって何かと上の方から目を付けられやすい建設業に近い舞台業界ですから、規則についてただ従うというだけでなく「何でこういう規則が作られたのか」という背景について考える機会になるかも知れません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください