舞台裏のミュージカル〜HEADS UP!

今日の舞台
『ミュージカル HEADS UP!』@神奈川芸術劇場 KAAT

10年以上前、舞台スタッフを主役にしたミュージカル作ってみたいと漠然と考えていたことがありました。漠然としすぎて設定も何も考えていなかったのですが、一つの舞台が作られる工程を歌と踊りで描いたらおもしろいだろうなと思っていました。
それからだいぶ経ち、そんな作品がついに現れました。それが、この作品です。聞けば演出のラサール石井さんも10年くらい温めていた企画だそうです。

あらすじ

ミュージカルファンなら誰もが知る“あの名作“が
1000回目の公演を迎え、華々しく終了するはず…だった。
が、主演俳優の鶴の一声で、
某地方都市の古い劇場で1001回目を上演することになった!
しかしながら、当然、舞台美術は廃棄済み、
キャストも足りない、スタッフも人手不足。
さらには新人舞台監督のデビュー作でもあった。
とんでもない条件の中でもスタッフたちは、必死に幕を開けようとする。
…幸か不幸か、チケットは完売、つまり観客が待っている!!
果たして幕は開けられるのか…。
主演俳優が「1001回目」にこだわった理由とは…?
(HEADS UP! 公式サイトより)

感想

リアルすぎる舞台セット

まず、客席に入って目に付いたのは空っぽの舞台。ぽつんと置かれている、台車に載せられた平台とイントレ。
舞台は壁の縦横に張り出している大きな梁とコンクリートの壁。そして、蛍光灯とギャラリーに登る猿梯子、大きな鉄製の搬入口。袖幕も大黒幕もホリゾント幕も一切出していない、素舞台です。そして、舞台を囲むように全面に張り出している大きな白いプロセニアム・アーチ。それから、客席から見切れるほど狭い上手と下手の袖。経年劣化で薄汚れた板目の舞台床。
あまりに精巧にできていて、途中までずっと本当にKAATの素舞台なんだと思い込んでいました。

この舞台公演で舞台を上演するという設定のため、実際に搬入口から搬入して仕込みをするところから始まります。実際に搬入口の扉を開けるシーンで、ようやく後ろの壁がセットなのだとわかりました。うん、確かにまだ新しいKAATがこんなに狭くて古臭いわけがない。

リアルなスタッフたち

スタッフは、相葉さん演じる新人舞台監督、哀川さん演じるベテラン舞台監督、そして橋本さん演じる大道具チーム、照明プランナーや照明スタッフ、制作さん、音響さん、そして現地バイトなどが登場します。

仕込みも実際に、バトンを降ろしてパーライトなどを吊り込みます。さすがに、がっつりとムービングから一般照明まで吊り込んでいる照明バトンは降ろしません。というか、降ろせません。なので、美術バトンです。

照明プランナーさんは、高所恐怖症のため早いうちからプランナーになったという設定がまた妙にリアルです。さらに、アンサンブルの方が演じている照明スタッフは、黒い上下の服に皮手袋、そして首からぶら下げた仕込み図というのが本物に間違えそうです。なんか混乱しそう。

哀川さんのベテラン舞台監督は「いざというときは俺がなんとかするから安心してやれ。誰でも初めてのときはあるんだから」と、さりげなく新人を支える姿がとてもかっこよく感じました。こういう人、必要です。照明にいたら師匠として崇めたいです。

相葉さんの新人さんは、頼りなさそうに見えながらも奮闘している姿がいいです。もしくらげが小屋付きだったら、いろいろ助力したくなります。

共感するセリフ

”劇場さん”の「観客はスタッフや役者、作品を観に来ているんじゃない。舞台の熱を感じに来ているんだ」というセリフにぐっと来ました。
そして、”演出家”の「客はスタッフの頑張りを観に来ているんじゃない、舞台の出来の良し悪しだ」というセリフ。たしかに頑張りを強調してしまうのですが、そうじゃないのです。全ては結果なのです。

気になったところ

制作役の青木さん、ちょっと不安な感じがしました。
照明をシュートするシーン。30年以上の古いホールなのに、介錯棒がアルミです。ここは間違いなく竹竿が置いてあるはずです。予算も厳しいようなので、きっと買い換えていないはずです。
あと、舞台セットとして台車に積んである平台が合板のきれいなものなのも気になりました。古いホールであれば、合板は使わず杉板など使っていて、経年劣化で黒ずんでいます。元小屋付きならではの厳しい視点ですが。

あと、小屋付きスタッフの存在が全く無いのも気になりました。いちおう、物語のキーとなる”劇場さん”はいます。でも、吊り物の昇降やサポートするはずのスタッフの存在が全く感じられません。役者として出さなくても、せめて吊り物昇降時に袖へ声を掛けるなどの存在を出して欲しかったです。

アフタートーク

この回では、上演後に哀川さん、ラサール石井さん、女優役の大空さん、劇場さん役の中川さんによるアフタートークがあります。短い時間でしたが、裏話なども聞くことができました。
そのときに、初めて床はKAATの床ではなくリノリウムを敷いていて、床の模様に塗ってあること、プロセニアム・アーチも舞台セットだったことを知りました。

締めくくり

全体を通して、舞台への愛を感じる作品です。だから、舞台の仕事はやめられないという気持ちがひしひしと伝わってきます。
無事に上演が終わった後のシーンで、『Chain』という歌があります。「舞台から逃れられない」という意味でもあり、「つながっていく」という意味でもある歌です。
この作品を通して、くらげもまた舞台という仕事から逃れられないのだと実感しました。

舞台の仕事は縁です。くらげも、縁でお仕事がつながって来ました。縁が続く限り、舞台の仕事は続けていきます。



2 Comments

みかんうさぎ

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こんにちは。なかなか面白そうな
作品ですね。
小屋つきの存在が描かれていないのは
確かに残念ですね。
まぁ田舎の方では小屋つきがいない
ホールもちらほらありますが…。
ちなみに私感ですが、
ぶっちゃけ小屋つきの存在って、
出演者や舞台業者の視点から見て
正直「見えていない」気がします。

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そらいろくらげ

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みかんうさぎさん
いらっしゃいませー。
ツアーで他の場所も回りますので、ご都合があればぜひご観劇ください。
首都圏でも、小屋付きがいないところはけっこうありますね。職員がやっているところとか、催事があるときだけ来てもらうスポット契約とか。横浜も数年前までは公会堂クラスでも小屋付きがいませんでした。
小屋付きは、出演者や舞台業者にとっての裏方なので見えてこともあるんでしょうね。

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