排ガス規制の関係と50ccの行く末について考えてみる

くらげが初めて乗ったのはホンダのリトルカブです。排気量は50ccで、いわゆる原付と呼ばれている車種です。

乗り始めたきっかけは移動手段のためでしたが、カブに乗る楽しさに目覚めて2年半の間にずいぶんと距離を走りました。しかし、乗っているうちに走る楽しさ以上に50ccで走ることの辛さと限界を感じるようになってしまいました。

小型二輪免許を取ってスーパーカブC125に乗り換えて50ccから離れた今、50ccバイクの行く末について考えてみることにしました。

原動機付自転車には二種類ある

その前に、まず原動機付自転車という車両区分について説明します。

よく言う「原付」というのは、実は二種類あります。非常にややこしいのですが、道路交通法と道路運送車両法で言い方が異なるのです。

まずは道路交通法から説明すると、原付は正しくは「原動機付自転車」といい、道路交通法では排気量50cc以下の車輌を指します。
排気量51cc〜125ccは「小型自動二輪車」と呼ばれています。免許区分では普通自動二輪免許に区分され、「小型限定」という限定が付きます。

道路運送車両法では、排気量125cc以下の車輌を原動機付自転車と呼び、さらに排気量で「原付一種」と「原付二種」の2つに区分されています。

分類 排気量 ナンバープレートの色
原付 一種 50cc以下
二種 51ccから90cc以下 黄色
91ccから125cc ピンク

一口に「原付」と言っても、「原付二種」は一種と違って法定速度30キロ制限や二段階右折の義務がなく、免許取得1年後は二人乗りも可能。高速道路を走れないこと以外は普通自動二輪と同じように走ることができます。

バイク市場の中で50ccは減少していっている

見渡せばそこらじゅうを原付が走っているように見えますが、実は50ccの市場は徐々に消滅をしています。ホンダの名車、モンキーでさえ2017年に生産を終了してしまいました。
くらげが乗っていたリトルカブも若い人を中心に人気の車種でしたが、2018年に生産を終えています。

そもそも50ccは日本市場だけの専用商品で、110~125ccはアジア、欧州、南米などで主流のクラスのため、50ccは日本の市場にしか出回っていません。その日本でさえ、郵便屋さんが乗っているスーパーカブのナンバープレートをよくよく見てみると、ほとんどがピンクなのです。

50ccで走っていると、否応なしに邪魔者扱いされるし煽られることも少なくありません。安さが魅力だった車両価格も近年高騰してきて、原付二種の車輌と大差がなくなってきました。
小型二輪免許であれば短い期間で取得できるので、小型免許を取得して51cc以上に乗ったほうがよほど快適です。
参考 原チャリが消え、125㏄バイクが増えている理由DIAMOND ONLINE

日本国内でも50ccの売り上げは減少しており、同じ50ccでも急激にeバイクが売り上げを伸ばしています。郵政省でもすでに郵便用のバイクは徐々にそれまで主流だったスーパーカブからeバイクへとシフトされつつあります。
参考 日本郵便とホンダ、協働で郵便配達二輪車9万台を電動化。実証実験開始Economic News

一番のネックは排出ガス規制法

50ccの一番の問題は時代遅れの道交法だと思われがちですが、実は別の大きな問題があります。それが、自動車排出ガス規制(通称:排ガス規制)です。

排ガス規制とは、バイクの排気ガス濃度を取り締まるための規定のことをいいます。国土交通省が定める道路運送車両法によって規制され、排ガスに含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOX(窒素酸化物)・黒煙等の大気汚染物質が保安基準以下でないと販売できないのです。ただし、規制が施行された時点ですでに所有している車両、施行日よりも古い車両に対して新しい規制が適用されることはありません。

なぜ排ガス規制法によって50ccが消滅しているのかというと、排ガス規制をクリアするには、多額の開発コストを要します。50ccはもともと値段が安いので、排ガス対策で価格の大幅上昇は避けられません。

50ccを購入するメリットの一つとして割安感がありますが、例えばカブ50とカブ110の価格差は4万円程度に過ぎません。世界的にみるとバイクの排気量は125ccが下限となっていて、世界の排ガス規制が「125ccでギリギリクリアできる」限界を狙って厳しさを増しています。
2006年(平成18年)にはさらに規制が厳しくなったことによって、基準値をクリアさせるためには50ccの販売価格に見合わない触媒装置を装着することになるため、価格上昇は避けられません。

ヤマハ発動機の日高社長は50ccバイク市場に関して「悲観的にみている」とした上で、「50ccの原付のお客様は日本国内においては軽四輪へのシフト、それから電動アシスト自転車へのシフトが始まっていて、50ccの原付はずっと漸減傾向が続いている」と指摘しています。
さらに「2020年の次期排ガス規制が始まると、50ccの原付は20万円近くまで値段を上げないとコストが合わない状況になると思っているので、さらに市場としては難しい状況になると思っている」とも述べています。
参考 ヤマハ日高社長「50ccは20万円まで値段を上げないと合わなくなる」---次期排ガス規制でRESPONSE

排ガス規制の歴史

ここで少し、排ガス規制の歴史について触れておきます。

排ガス規制は1960年代から始まり、ほぼ毎年改正されていますが、

平成10年排出ガス規制 (1998年)

最初に二輪車に対する排ガス規制が設けられたのは1998年のことです。
最初の規制は、4ストロークと2ストロークで別々の規制値が設定され、2ストロークに厳しい規制でした。原付バイクや小型スクーターなどは排気量が少なく販売台数が多いので、三元触媒を利用した排ガス低減手法によって規制に対応しました。

一酸化炭素(CO) 炭化水素(HC) 窒素酸化物(Nox)
2サイクル 8.0 3.0 0.10
4サイクル 13.0 2.0 0.30

※単位はg/km

しかし、排気量の大きい125ccや250ccクラスは、規制対応による出力低下や開発コストの上昇などの問題から、多くは排ガス規制対応を諦めて生産を中止しました。その結果、2サイクルエンジンを搭載したスポーツおよびオフロードモデルが2000年頃までに次々と消えていきました。

平成18年排出ガス規制 (2006年)

1997年、世界各国の政府代表者が日本の京都に集まり、国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP3:Conference of Parties)を開催しました。日本が議長国となり、「みんなで止めよう温暖化」スローガンに掲げられたのが京都議定書という国際条約が採択されました。

京都議定書では、先進国に対し「2008年から2012年の第一約束期間の5年間に、温室効果ガスを少なくとも5%削減する」ことを目標として掲げ、先進国は各国毎に削減目標を決め、1990年比で、日本は6%、米国は7%、そしてEUは8%と約束します。

国土交通省は2006年8月29日、小型二輪自動車、軽二輪自動車及び原動機付自転車の排出ガス基準を強化するため、「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(平成14年7月15日国土交通省告示第619号)等を一部改正し、同日施行しました。
これにより日本の二輪車の排出ガス規制は世界で最も厳しい、HC(炭化水素)などの85%低減が求められる内容で、スーパーカブやモンキーのような小型のエンジンでも、細かい調整ができないキャブレター式から電子制御式燃料噴射装置(FI)に置き換えることを余儀なくされました。

一酸化炭素(CO) 炭化水素(HC) 窒素酸化物(Nox)
2.0 0.3 0.15

※単位はg/km

平成24年排ガス規制 (2012年)

この年の規制では、検査方法が日本基準だったものから国連で策定された、自動車基準調和世界フォーラム(UN/ECE/WP29)にて作成された技術基準、排気ガス濃度測定方法(WMTCモード:Worldwide Motorcycle emissions Test Cycle モード)が導入され、排気量によるクラス分けも変更されました。規制値は、モードが異なったため数値が異なりますが、平成18・19年排ガス規制値と等価です。

検査方法がWMTCモードに変更されたことによって輸出する国や地域ごとに仕様を変更する必要がなくなり、大幅なコスト削減に繋がりバイクのグローバル化が進みました。

平成28年排出ガス規制 (2016年)

平成28年排出ガス規制では、EURO4(EU(欧州連合)で段階的に実施されている排出ガス規制)と同じ基準のため、規制値は平成24年規制の半分とされています。
さらに、「OBD-Iシステム(車載式故障診断装置)」と「燃料蒸発ガス規制」の導入が義務付けられました。

適用車種 一酸化炭素(CO) 炭化水素(HC) 窒素酸化物(Nox) 非メタン炭化水素(NMHC) 粒子状物質(PM)
クラス1
(50〜125cc)
1.14 0.3 0.07 - -
クラス2
(250cc相当)
1.14
(1.58)
0.2
(0.24)
0.07
(0.10)
- -
クラス3
(500cc以上)
1.14
(1.58)
0.17
(0.21)
0.09
(0.14)
- -

※単位はg/km
※()は上限値

ここでもまた、厳しい規制にクリアするのは技術的にもコスト的にも困難であるため、ホンダの人気車種、モンキーやリトルカブなどの車種が軒並み生産中止に追い込まれることとなりました。

令和2年排ガス規制 (2020年)

2020年にはついに世界で最も厳しい欧州の「EURO5」と同等の「令和2年排ガス規制」として、新型車(全排気量)は令和2年12月から、継続生産車は令和4年11月から適用対象となります。

一酸化炭素(CO) 炭化水素(HC) 窒素酸化物(Nox) 非メタン炭化水素(NMHC) 粒子状物質(PM)
1.0(1.14) 0.10(0.30) 0.06(0.21) 0.068(0.088) 0.0045(0.0068)

※単位はg/km
※()は上限値

この規制では、排出ガスを浄化する装置の劣化を監視する機能である『車載式故障診断装置(OBD-Ⅱ)』の搭載が義務化されます。

前身となるOBD-Ⅰでは故障診断ツールの規格までは統一されていなかったため、車種ごとに診断ツールが必要でしたが、OBD-Ⅱでは同じ形状&同じピン配置の接続コネクター、また、同じ故障コードを採用して規格を共通化。不具合発生時には、メーカーを問わずに警告灯を点灯させる機能を持たせることが可能になりました。

車載式故障診断装置(OBDⅡ)』搭載の義務化やより厳しい規制をクリアすることは、コストがかかるため小型排気量車ほど厳しいものになります。そのため、50ccのみ適用時期が2025年11月と適用時期までに猶予期間が設けられました。
参考 〈朗報〉排ガス規制50ccは延期へ!!YOUNG MACHINE

来たるべきEURO6に向けて50ccは生き残れるのか

前述のとおり、令和2年排ガス規制で義務化された規制値とOBD-Ⅱに対応するために、50ccバイクの価格上昇は避けられない状況です。さらに、まだその先にはEURO6というさらに厳しい規制が待ち構えています。

車体価格が原付二種並みに上昇すれば、ますます50ccユーザーは減っていくでしょう。メーカーとしても、ニーズの減った50ccを125〜150ccクラスでぎりぎりと言われている規制に対応することはコストに見合わないため、近い将来電動バイクにシフトしていくのではないでしょうか。

締めくくり

2008年製のリトルカブから2018年発売のスーパーカブC125に乗り換えてみて感じたのは、思った以上に排気ガスの臭いを感じないということでした。
ホンダドリームに聞いたところ、すでにホンダでは現状の基準以上に厳しい基準にも対応できる技術を用いているということだったので、EURO6を想定して技術開発をしているのでしょう。

50ccが果たしてどこまで生き残れるのか。2024年のEURO6相当の排ガス規制のときに答えが出るのかもしれません。

参考文献

5 Comments

タイカブ100

駐輪場で困る。50以下しかダメのところが大半。市や駅周辺の駐輪場がこれではねえ。税金も125以下のほうが高いし、なら、税金に貢献している125以下を基準にしないのかな?市も50以下が減っているのを知っているはず。市は商売がヘタですね

返信する
そらいろくらげ

タイカブ50さん

いらっしゃいませー。
そうそう、125は税金に貢献しているんだからもっと原付二種に優しくしてほしいです。

zep250

東京オリンピックを境に原付二種までは普通乗用車免許があれば講習のみで乗れるようになると聞いた事がありますがどうなったんでしょうか?

返信する
そらいろくらげ

zep250さん

いらっしゃいませー。
その件については各バイク雑誌でも取り上げられていますね。オリンピックには間に合いませんでしたが、現在二輪車産業では経産省に働きかけを行なっているようですが、実際のところはまだどうなるのかわかりません。

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